第2章 雄英高校入学編
手当を受ける緑谷は、別のところに意識が向いていた。
彼女の顔が近い。
長い睫毛、整った横顔、落ち着いた声。
そして何よりヒーローコスチュームで浮き彫りになっている出る所はしっかり出ている彼女の体型――
自分と同じ高校生である彼女が、どこか自分たちとは違う大人びた雰囲気を持っていることに、今さら気づいてしまった。
「……っ」
緑谷の顔が、一気に赤くなる。
「どうしたの?」
「い、いえっ!」
「熱でもある?」
「な、ないです!」
彼女は首を傾げる。
緑谷はますます顔を赤くした。
無理もなかった。
彼から見れば、彼女はクラスメイトだ。けれど実際には、身分も経歴も年齢も偽っている成人女性。その事実を、彼はまだ知らない。ただ、目の前にいる彼女が、自分よりずっと落ち着いていて、大人に見えた。
「……ありがとう」
緑谷は俯きながら言った。
「うん」
彼女は包帯を固定する。
「でも、緑谷くん」
「はい?」
「一つだけ、アドバイス」
彼女は緑谷の目を見る。
「自分の身体を壊してまで勝つ必要はないよ」
「……」
「今の君は、能力を使いこなしているんじゃない。身体に無理をさせて、能力を引き出している」
緑谷は黙って自分の腕を見る。
「それじゃ、いつか戦えなくなる」
「……じゃあ、どうすれば」
「身体を能力に合わせるんじゃない」
彼女は少しだけ笑った。
「能力を、今の自分の身体に合わせていくの」
「……!」
「出力を下げる。使い方を変える。別の戦い方を探す。君には、まだそれができる時間がある」
緑谷は彼女を見つめた。
「……僕にも、できるかな」
「できるかどうかじゃないよ」
彼女は救急箱を閉じる。
「できるようになるまで、考え続けるのが君の仕事」
緑谷の目が大きくなる。
そして、少しだけ笑った。
緑谷は自分の可能性を見つけてくれた人の言葉として、その助言を大切に胸へしまった。
彼女はそんな緑谷を見ながら、静かに思う。
――オールマイト。
あなたがこの子に託したものは、想像以上に大きいみたい。
そして同時に。――この子自身が、まだその力の大きさを知らない。彼女の「軍略眼」は、すでに次の戦いを見据えていた。