第6章 保須市襲撃事件
彼女は、いつも通りクラスの皆の会話に加わっていた。
爆豪は、彼女の横顔をちらりと見た。
以前の彼女なら、会話の輪に加わっていても、どこか一歩引いたような雰囲気があった。誰かの言葉を聞きながら、相手の考えを分析し、次の反応まで見透かしているような目。
笑っていても、決して隙を見せない。
そんな印象があった。
それなのに、今の彼女は。
ほんの少しだけ、毒気が抜けたように見えた。
警戒心がなくなったわけではない。相変わらず何を考えているのか分からないところはある。
だが、以前よりも自然に笑い、誰かの話に耳を傾けている。
まるで、ほんの少しだけ肩の力が抜けたような――。
「……チッ」
爆豪は乱暴に椅子を引き、腰を下ろした。
ガタン、と大きな音が響く。
「うわっ、爆豪! 椅子壊すなよ!」
「壊してねぇだろうが!」
いつもの調子で怒鳴り返しながらも、頭の中では先ほどの会話が繰り返されていた。
――個性が使えなくなったら、元も子もねぇだろうが!
階段の下で聞いた、相澤の怒声。
――個性が、使えねぇだと……?
爆豪は机に肘をつき、眉間に皺を寄せた。
個性が使えない。
つまり、今のあいつは無個性と同じ状態なのか。
一時的なものなのか、それとも何か別の理由があるのか。そこまでは聞き取れなかった。
だが、相澤のあの剣幕。
ただ事ではないのは確かだった。
(……いつからだ)
少なくとも、雄英に戻ってきた彼女は、いつもと変わらなかった。
クラスメイトに話しかけ、笑い、授業の準備をしている。いつものように落ち着いていて、何を考えているのか分からない。
個性が使えない人間の振る舞いには、とても見えなかった。
いや――。
そもそも、あいつは自分の個性をどこまで見せている?
USJでの、あの異様な動き。
体育祭での戦い。
そして、自分との個人戦で見た注射器…。
どれも引っかかることばかりだ。
相手の動きを先読みしているようでいて、時には考えるより先に身体が動いているようにも見えた。銃を使ったかと思えば、周囲の地形まで利用して敵を翻弄する。
ただの戦略家という言葉では片づけられない戦い方だった。
それだけの力を持っていたはずの女が、今は個性を使えない。
(……どういうことだ)