第6章 保須市襲撃事件
それなのに彼女は、誰にも頼らず、限界を超えてしまった。
「……いいか」
相澤は、少しだけ声を落とした。
「学校では、特別扱いはしない」
彼女が顔を上げる。
「個性が使えないからといって、お前だけを甘やかすつもりはない。授業も、できる範囲で参加してもらう。必要な評価も、ほかの生徒と同じ基準で考える」
「……はい」
「だが」
相澤は彼女の目をまっすぐに見た。
「必要以上に自分を追い詰めるな」
その言葉に、彼女は瞬きをした。
「できないことがあるなら、できないと言え。今までと同じように動けないなら、別の方法を考えればいい。無理に以前の自分を演じる必要はない」
「…………」
「それに、個性が使えないことと、お前に何もできないことは同じじゃない」
彼女の表情が、わずかに揺れた。
相澤は続ける。
「お前には、状況を読む力も、判断力もある。個性が戻るまでの間にできることを探せばいい。俺も必要なフォローはする」
最後の言葉だけ、少しぶっきらぼうだった。
まるで、余計なことを言ったとでも思っているかのように。
「……先生」
「何だ」
「それは……私が失敗したら、助けてくれるということですか?」
相澤は、じろりと彼女を見た。
「失敗する前に相談しろ」
「……はい」
「それから、体調に異変があったらすぐに言え。個性を無理に使おうとするな。医師の指示にも従え」
「分かりました」
「本当に分かってんのか?」
「……努力します」
「そこは『分かりました』で通せ」
思わず、彼女の口元が緩んだ。
ほんの小さな笑み。
けれど、それを見た相澤の表情も、ほんのわずかに和らいだ。