第6章 保須市襲撃事件
彼女は視線をわずかに逸らした。
「……こうして、戻ってきましたので」
言いながら、自分でも苦しい言い訳だと思った。
相澤の眉間の皺が、さらに深くなる。
「馬鹿野郎!」
校舎の壁に、怒声が反響した。
「個性が使えなくなったら元も子もねぇだろうが!」
「…………」
さすがに、言葉が出なかった。
痛いところを突かれた。
何も言い返せない。
彼女は俯き、指先をそっと握りしめた。
相澤は大きく息を吐いた。
「……医師からの報告は、オールマイト経由で聞いている」
彼女は顔を上げた。
「今は個性が発動できない状態で、いつ回復するかも分からない。そうだな?」
「……はい」
「それで、お前はどうするつもりだった?」
「それは……」
言葉に詰まる。
どうするつもりだったのか。
個性が使えないことを隠し、今までどおりに振る舞う。
必要な場面では、別の方法で切り抜ける。
周囲に疑われないよう、できる限り自然に。
考えていたのは、それくらいだった。
けれど、相澤はそんな彼女の思考を見透かしたように言った。
「どうせ、今までどおりに振る舞って、何とか誤魔化すつもりだったんだろ」
「…………」
図星だった。
「お前は自分のことになると、どうしてそこまで無茶をするんだ」
相澤の声には、まだ怒気が含まれていた。
だが、その奥には別の感情が混じっていた。
苛立ち。
心配。
そして、ほんの少しの悲しさ。
「俺は、お前に無理をするなと言ったはずだ」
「……はい」
「戻ってこいとも言った」
「……はい」
「それで戻ってきた結果がこれか」
彼女は、ますます俯いた。
相澤は目元を押さえた。
本当なら、もっと早く気づくべきだったのかもしれない。
彼女が何を抱え、どこまで自分を追い込んでいるのか。
教師として、彼女を生徒として迎え入れた以上、少なくとも学校にいる間は守るべきだった。