第6章 保須市襲撃事件
職業体験が終わり、雄英高校へ登校する日がやってきた。
朝の校舎には、久しぶりに顔を合わせた生徒たちの声が響いていた。
「それでさ、事務所の人がいきなり――」
「マジかよ! そんなことあんのか!?」
「俺なんか、初日からずっと走り込みだったぞ!」
職業体験で経験したことを、互いに報告し合うクラスメイトたち。
教室の中は、いつも以上に賑やかだった。
おもちは、その声を廊下から聞きながら、いつものように微笑んだ。
「……相変わらずね」
久しぶりの学校。
こうして何事もなかったように戻ってこられたことに、少しだけ安堵する。
彼女は教室の扉に手をかけた。
「みんな、おはよう――」
その瞬間。
ぐいっ、と腕を引かれた。
「……え?」
身体が扉から離れる。
振り返る間もなく、彼女を引っ張った人物は、廊下の奥へと歩き出した。
「ちょ、ちょっと……!」
見上げると、そこには見慣れた黒い髪と、眠たげな目。
相澤消太だった。
「相澤先生?」
返事はない。
彼は彼女の腕を掴んだまま、階段の下にある人気のない場所まで連れていった。
そして、ようやく足を止める。
「……あの、先生?」
彼女は首を傾げた。
状況が分からない。
とりあえず、いつもどおりに挨拶をすることにした。
「あの、おはようございます、相澤先生」
「違うだろ!」
突然の一喝。
彼女の肩が、ぴくりと跳ねた。
「……え?」
「『おはようございます』じゃねぇ!」
相澤は眉間に深い皺を刻んでいた。
「職業体験先でお前を見送ったとき、俺が何て言ったか覚えているか?」
彼女は一瞬、黙り込んだ。
職業体験へ向かう朝。
クラスメイトたちを見送ったあと、相澤と二人で交わした会話が脳裏をよぎる。
――仕事なら、何をしてもいいわけじゃない。
――……無事に戻れ。
あのときの相澤の声は、今も覚えている。