第6章 保須市襲撃事件
入院生活を含め、職業体験の一週間が終わった。
病室の窓から差し込む午後の日差しを浴びながら、おもちは携帯電話を耳に当てていた。
『おい、本当にもう大丈夫なんだろうな?』
電話の向こうから聞こえてくるのは、白鷺ヒーロー事務所のホワイトクレインの声だった。
いつもは厳しく、何事にも妥協しない彼が、今日は何度も彼女の体調を確認してくる。
「ええ。まだ少し頭痛は残っているけれど、退院の許可も出たわ」
『……そうか』
短い沈黙。
そして、次に聞こえてきた声は、思いのほか柔らかかった。
『無事でよかった。本当に……無事でよかった』
彼女は、思わず目を瞬いた。
「……心配かけたわね」
『当たり前だろうが! お前、自分がどんな状態だったか分かってんのか?』
「……分かってるわ」
『分かってねぇから、あんな無茶をするんだろうが』
いつもの調子に戻ったホワイトクレインに、彼女は小さく笑った。
彼は彼女の事情を知る数少ない人間だ。
職業体験の最中に任務へ出ていたことも、彼女が本来の仕事でどんな危険を背負っていたのかも。
だからこそ、彼の叱責には、隠しきれない心配が滲んでいた。
『こっちのことは気にするな。職業体験中の記録も、必要な調整は済ませてある。お前が途中で体調を崩して休養していたことにしてあるからな』
「……助かるわ」
『助かるわ、じゃねぇ。今は余計なことを考えず、しっかり休め。学校のことも仕事のことも、今のお前が考えることじゃない』
「分かったわ」
『本当だな?』
「ええ」
『……ならいい。何かあったら、すぐ連絡しろよ』
「ありがとう、ホワイトクレイン」
電話の向こうで、彼が小さく息を吐いた。
『……おう。ちゃんと戻ってこいよ』
その言葉を最後に、通話は終了した。
彼女は携帯電話を膝の上に置いた。
しばらく、画面を見つめる。
自分の無事を心から喜んでくれる人がいる。
失敗を責めるよりも先に、帰ってきたことを喜んでくれる人がいる。
それが、今の彼女には少しだけ不思議だった。