第6章 保須市襲撃事件
彼女は、自分の手のひらを見つめた。
いつものように、指先に意識を集中させてみる。
空気の流れを感じ取る。
周囲の物体を認識する。
その先にあるはずの、自分の力へと意識を伸ばす。
――何も起こらない。
いつもなら、意識を向けるだけで感じ取れたはずのものが、今は遠く閉ざされていた。
まるで、自分の中にあった扉が、突然、鍵をかけられてしまったかのようだった。
「……そう」
彼女は、それだけ答えた。
声に大きな動揺はなかった。
医師は、そんな彼女を見て、わずかに眉を下げる。
「……驚かないんですね」
「可能性は考えていたから」
「それでも、個性が使えない期間がどれほどになるかは分かりません。今後の任務についても、必ず公安と相談してください。しばらくは無理をしないこと。薬剤の使用についても、改めて慎重に判断する必要があります」
「分かったわ」
彼女は素直に頷いた。
けれど、その隣では、オールマイトが一言も発さずに座っていた。
彼の表情から、先ほどまでの安堵が消えている。
やがて、低い声が病室に落ちた。
「……待ってくれ」
医師が振り返る。
「今、副作用と言ったね?」
その声には、明らかな戸惑いがあった。
「……個性を使えないほどの副作用とはどういうことだ?」
医師は一瞬、言葉を詰まらせた。
そして、彼女へと視線を向ける。
彼女は小さく息を吐いた。
「……オールマイト、ごめんなさい。あなたに伝えてなかった事があるの」
オールマイトは、彼女を見つめた。
「おもちくん、説明してくれ」
責めるような口調ではなかった。
ただ、信じられないという気持ちが、声に滲んでいた。
彼女は視線を落とす。
「……個性を使いすぎたときに、身体への負担を抑えるための薬剤よ。公安の任務で必要になることがあって……」
「いつから?」
「……前から」
「前から、というのは?」
「…公安に入った時からだから、7年前かな」
オールマイトの手が、膝の上でぎゅっと握られた。
彼女は、彼の顔を見られなかった。
「通常の薬剤では対処しきれない場合もあるから、今回みたいな高濃度のものも用意されていたの。もちろん、副作用についても十分な説明は受けていたわ」
「……副作用を、知っていたのか?」
「ええ」
彼女は淡々と答えた。