第6章 保須市襲撃事件
高濃度の薬剤によって意識は保たれている。だが、個性使用による精神的な負荷が消えたわけではなかった。
むしろ、無理やり身体を動かせる状態にしたことで、疲労を自覚する余裕さえ失いかけている。
苦しい。
頭が痛い。
身体の奥が、じくじくと軋むようだった。
「……少しだけ……」
目を閉じる。
ほんの少し。
少しだけ休めば、動けるようになる。
そう考えたところで、意識がまた遠のき始めた。
そのとき、ひらり。
視界の端を、赤いものが横切った。
一枚の羽根が、夜風に乗ってゆっくりと舞い落ちてくる。
彼女はぼんやりとそれを目で追った。
赤い羽根。
見間違えるはずがない。
「……ホー、クス……」
かすれた声で、その名を呼んだ。
直後、路地の入り口から、聞き慣れた声が飛んできた。
「――いた!」
駆け込んできたのは、赤い翼を持つ青年。
ホークスだった。
普段の軽薄な笑みは、どこにもない。
彼は座り込む彼女の姿を見つけると、表情を強張らせ、一気に距離を詰めた。
「おい、おもち! 聞こえる!?」
「……聞こえてるわよ……」
「どこが! 今にも意識飛びそうじゃん!」
ホークスは彼女の前に膝をつき、顔を覗き込んだ。
額に触れる。頬の色を確認する。呼びかけに対する反応を見る。
目立った外傷はない。
出血も、骨折を疑うような変形も見当たらなかった。
けれど、顔色がひどく悪い。
唇には血の気がなく、目元にも疲労が濃く浮かんでいる。
「……なんて無茶したんだ!」
思わず声が大きくなった。
彼女は眉を寄せる。
「……声、大きい……」
「そりゃ大きくもなるでしょ! 会長から連絡が来て、急いで迎えに来たら、君が路地裏で倒れかけてるんだよ!?」
「……倒れてないわ」
「座り込んでる時点で、説得力ないって!」
いつもの調子なら、ここで彼女は涼しい顔で言い返しただろう。
けれど今は、口を開くのも今は億劫だった。