第6章 保須市襲撃事件
「な、何が……?」
飯田が戸惑った声を漏らす。
「急に……殺気が消えた?」
轟は警戒を解かず、ステインの様子を観察した。
グラントリノも眉をひそめる。
「おい、どうなってやがる……?」
先ほどまで、あれほどの威圧感を放っていた男が、今は微動だにしない。
誰かが攻撃したわけでもない。
誰かが拘束し直したわけでもない。
ただ、突然、止まった。
「……気絶しているのか?」
エンデヴァーが一歩踏み出し、慎重に様子をうかがう。
しかし、誰にも明確な答えは出せなかった。
緑谷は荒い呼吸を整えながら、ステインを見つめる。
ほんの数秒前まで、自分たちはあの男の殺気に圧倒され、動くことさえできなかった。
それなのに、今はもう何も感じない。
まるで、誰かが突然、舞台の幕を下ろしたかのようだった。
「……一体、何が起きたんだ?」
誰の呟きにも、答えはなかった。
そのはるか上空。
おもちは、静かに目を伏せた。
「……これでいい」
ステインの意識は、彼女の命令によって封じられている。
ひとまず、これ以上の被害は防げた。
彼女は地上の様子をもう一度確認する。
緑谷は立ち上がろうとしている。轟と飯田も、互いの無事を確かめていた。
よかった。
本当に、間に合ってよかった。
その感情を胸の奥へ押し込め、彼女は夜風に身を委ねる。
地上では、プロヒーローたちがステインの再拘束に動き始めていた。
誰も、彼を止めた存在には気づいていない。
誰も、夜空から見守っていた女の存在を知らない。
そしておもちは、誰にも見られることなく、再び夜の闇へと姿を消していった。