第6章 保須市襲撃事件
「己の利益のためにヒーローを名乗る者。名声に溺れ、救うべき者を見失った者」
ステインの殺気が、周囲へと広がっていく。
「そんな者たちが、ヒーローを名乗るな」
空気が変わった。
圧倒的な威圧感。
まるで、その場にいる全員の動きを縛りつけるかのような、異様な存在感だった。
グラントリノでさえ、すぐには動けなかった。
歴戦のプロヒーローたちが、息を呑む。
先ほどまでステインを拘束していた者たちも、身体が硬直したように動けずにいた。
「……っ、なんだ、この圧……!」
緑谷は息を詰めた。
身体は限界に近い。それでも、目の前の男から目を逸らすことができなかった。
轟も、飯田も同じだった。
ステインの言葉には、狂気だけではない何かがある。
だからこそ、恐ろしい。
その光景を見下ろしながら、おもちは静かに目を細めた。
「……厄介ね」
このままでは、再び誰かが傷つく。
ステインは、まだ止まっていない。
そして、この場にいる誰もが、その殺気に呑まれていた。
彼女は周囲を見回した。
距離は十分にある。
地上のヒーローたちからは、彼女の姿も、個性を発動させる動作も見えない。
ここなら、余計な痕跡を残さずに介入できる。
「仕方ないわね」
静かに息を吸う。
彼女の意識が、眼下の男へと向けられた。
対象を限定。
余計なものには触れない。
広げるのは、ステインただ一人の精神領域。
誰にも気づかれないよう、深く、静かに。
――捕捉。
彼女の青い瞳が、夜の中でかすかに光った。
そして、心の中で言葉を落とす。
『ステイン、止まりなさい』
その瞬間。
ステインの動きが止まった。
「…………」
小刀を握ったまま、仁王立ちになっている。
目は開いているのに、そこには先ほどまでの意思が感じられなかった。
まるで、突然意識を失ったかのように。
次の瞬間、周囲を支配していた殺気が、嘘のように消えた。
「……っ、はぁ!」
最初に息を吐いたのは、緑谷だった。
身体を縛りつけていた見えない圧力が、ようやく消えたのだ。
轟も、飯田も、周囲のプロヒーローたちも、呆然とステインを見つめていた。