第6章 保須市襲撃事件
安堵した、その瞬間だった。
「――緑谷くん!」
誰かの叫びが夜空を裂いた。
翼を持つ脳無が、突如として上空から飛来したのだ。
脳無は緑谷の身体を掴むと、そのまま大きく翼を広げ、空へと飛び立とうとする。
「なっ……!」
「緑谷!!」
轟が叫ぶ。
飯田も負傷した身体を動かそうとするが、すぐには追いつけない。
上空から一部始終を見ていたおもちの目が、鋭く細められた。
――追うか?
判断は一瞬だった。
あの脳無を止めること自体は、難しくない。
しかし、ここで自分が姿をさらせばどうなる。
眼下には複数のプロヒーロー。エンデヴァーも、グラントリノもいる。さらに、ヒーロー殺しを捕らえたばかりの現場だ。
これ以上、余計な情報を与えるわけにはいかない。
今夜の彼女は、あくまで秘密裏の任務中。
自分の存在を知られることは、今後の活動に影響する。
「……迂闊には動けない、か」
唇を引き結び、脳無の動きを見極めようとした。
そのとき。
「――偽物が」
低く、冷たい声が響いた。
拘束されていたはずのステインが、ゆっくりと顔を上げていた。
その手には、小刀。
いつの間にか、拘束の一部を解いていたのだ。
「なっ……! 拘束が!」
誰かが叫ぶよりも早く、ステインの身体が動いた。
次の瞬間には、もう地面を蹴っていた。
常人の目では追い切れない速度。
ステインは跳躍し、翼を広げた脳無へと一気に肉薄する。
「――そこまでだ」
振るわれた小刀が、脳無の頭部を捉えた。
脳無の動きが止まる。
緑谷を掴んでいた手が緩み、彼の身体が宙へ放り出された。
「うわっ……!」
間一髪、緑谷は地面へと落下する。
轟と飯田が駆け寄り、彼を受け止めようとした。
そして、脳無が力を失って地上へ落ちるのとほぼ同時に、ステインも着地した。
――静寂。
誰もが、目の前で起きたことを理解できずにいた。
だが、それも束の間だった。
ステインが、ゆっくりと顔を上げる。
その眼差しには、常軌を逸した憎悪が宿っていた。
「……偽物ばかりだ」
低く、押し殺した声。