第6章 保須市襲撃事件
その頃、エンデヴァーは地上へ降り立っていた。
「……何だ?」
ふと、頭に重いものが残っているような感覚を覚える。
こめかみを押さえ、眉をひそめた。
妙だった。
何かを考えていたような気がする。
誰かと話していたような気もする。
だが、その内容がまるで思い出せない。
ただ、頭が重い。
そして、自分の意思とは別に何かをさせられていたような、説明のつかない違和感だけが残っていた。
「……疲労か」
彼は短く結論づけた。
今は、考えている場合ではない。
息子が向かった先で何かが起きている可能性がある。
エンデヴァーは顔を上げ、炎をまとった。
「焦凍……」
彼は振り返ることなく、告げられた住所へと向かっていった。
その背後で、屋上に残された夜風が静かに吹き抜ける。
彼女の存在を知る者は、もう誰もいない。
だが、彼女自身は知っていた。
今夜、保須市で本当に対峙すべき相手は、脳無だけではないのだと。
ヒーロー殺し、ステインの捕縛に成功した緑谷、轟、飯田。
そしてプロヒーローのネイティブ。
満身創痍だった。
緑谷は全身に傷を負い、轟も消耗していた。飯田に至っては、立っていることさえ危うい。それでも三人は力を合わせ、ついにステインを地面へと押さえ込んでいた。
「……っ、はぁ……はぁ……」
緑谷が荒い息を吐く。
「やった……のか……?」
「まだ油断するな、緑谷!」
轟が警戒を解かずに告げる。
そのとき、周囲から複数の足音が響いた。
「おい! 状況はどうなっている!」
プロヒーローたちが次々と集まり始める。少し遅れて、エンデヴァーとグラントリノの姿も見えた。
その光景を、さらに高い位置から見下ろしている影があった。
黒い衣装をまとった金髪の女。
おもちは、夜風に髪を揺らしながら、眼下の様子を静かに確認していた。
「……よかった」
小さく、息を吐く。
「みんな、無事みたいね」
緑谷も、轟も、飯田も生きている。
ひとまず、最悪の事態は免れた。