第6章 保須市襲撃事件
そして、飯田が保須市を選んだ理由。
彼の兄、インゲニウムを襲ったヒーロー殺し。
もし飯田が、その事件に個人的な理由で関わろうとしているのなら――。
「……まさか、ね」
口ではそう呟きながらも、彼女はすでに次の行動を決めていた。
エンデヴァーの情報だけでは、ステインが実際にその場所にいると断定できない。
けれど、確かめる価値はある。
もし彼がそこにいるのなら、飯田たちが危険にさらされている可能性は高い。
「エンデヴァー」
「……何だ」
「あなたは、私を見つけたことを忘れて」
彼女は彼の目を見つめた。
「この屋上で私と話したことも。私の姿も、声も、何もかも」
彼の意識に、もう一つの命令が刻まれる。
「それから、轟くんが向かった住所へ行って。現場の状況を確認して、必要なら彼を助けて」
「……分かった」
返答は、ひどく自然だった。
彼女は一歩下がり、エンデヴァーから距離を取った。
個性の作用が、静かに彼の精神へと定着していく。
「じゃあ、頑張ってね」
彼女は軽く手を振った。
エンデヴァーは何も答えず、屋上の縁へと向かう。
炎を噴き上げ、夜空へ飛び立った。
その背中を見送りながら、彼女は小さく息を吐いた。
「……さて」
残された彼女は、端末を取り出して轟が向かった先の住所を確認した。
金色の髪が、夜風に揺れる。
先ほどまでの余裕は、もうなかった。
「飯田くん……」
嫌な予感が、確信に近いものへと変わりつつある。
彼女は再び風を操り、屋上から飛び立った。
向かう先は、轟焦凍がいるはずの場所。