第6章 保須市襲撃事件
おもちは、解放された腕を軽くさすった。
「最初から、そうしてくれればいいのに」
エンデヴァーは眉をひそめた。
「……今、俺は何を――」
「エンデヴァー」
彼女が静かに名前を呼ぶ。
彼の視線が、再び彼女へ向いた。
「あなたが今夜、把握している情報を教えて」
「……情報?」
「保須市で活動しているプロヒーローの人数。それぞれの個性と現在の配置。あなたが知っている範囲で構わないわ」
エンデヴァーの表情から、徐々に険しさが消えていく。
彼女の命令に従うことに、疑問を抱かなくなっていた。
「現在、保須市では複数の脳無が出現している。各所でプロヒーローが対応しているが、詳細な人数は把握しきれていない。俺は炎を使って脳無を制圧していた。グラントリノも別の個体と交戦している」
彼は、把握している範囲の状況を淡々と話した。
彼女はその情報を、頭の中で整理していく。
脳無の出現地点。
ヒーローたちの配置。
対応に追われている現場。
そして、先ほどから胸の奥に引っかかっている嫌な予感。
「……轟くんは?」
その名前を口にした瞬間、彼女の思考が一つの方向へつながった。
エンデヴァーの息子、轟焦凍。
雄英高校の生徒であり、今夜は保須市で職業体験を行っているはずだった。
「……焦凍は」
エンデヴァーは、息子が向かった先の住所を告げた。
彼女はその場所を記憶に刻み込む。
彼らが同じ場所にいる可能性。
街で起きている異常事態。
そして、近頃ニュースで繰り返し報道されている、ヒーロー殺しステインの存在。
彼女の表情から、わずかな笑みが消えた。
「……そういうこと」
脳無の出現だけでも十分に異常だった。
だが、ヒーローたちが街の各所に分散し、対応に追われている今、別の事件が進行していても不思議ではない。