第6章 保須市襲撃事件
この女は何者なのか。
なぜ、脳無を操れたのか。
そして、なぜ正体を明かさず、夜の屋上から戦場を見下ろしていたのか。
エンデヴァーは、そのすべてを問いただすように彼女を睨んだ。
彼女はその視線を正面から受け止めた。
公安の人間として、素性を明かすつもりはない。
雄英の生徒としても、ここで顔を知られるわけにはいかない。
それでも、目の前の男を無視して立ち去ることは難しそうだった。
「……困ったわね」
彼女は小さく呟く。
「質問に答えろ。あの脳無に何をした?」
エンデヴァーの声が、夜の屋上に響いた。
おもちは、彼の背後で揺らめく炎に目を向けることもなく、淡々と答えた。
「街を襲っていた脳無を止めただけです」
「そんな説明で納得できると思っているのか!」
エンデヴァーが一歩踏み込む。
「お前は何者だ。公安の人間か? それとも、ヴィラン側の人間か?」
「どちらでもなかったら?」
「ふざけるな!」
次の瞬間、エンデヴァーの手が彼女の腕をつかんだ。
強い力だった。
「正体を吐け!」
その剣幕にも、彼女は眉一つ動かさなかった。
むしろ、困ったように小さく息を吐く。
「……話を聞かない人ね」
「何だと?」
「手を離して」
「答えるまで離すつもりは――」
その言葉が終わる前に、彼女の青い瞳がエンデヴァーを捉えた。
空気が、わずかに変わった。
彼女は抵抗しなかった。腕を振りほどこうともしなかった。
ただ、エンデヴァーの意識へと、静かに個性を滑り込ませる。
彼の精神領域に、自分の意思を刻み込む。
――手を離して。
命令は、抵抗を許さないほど明確だった。
「……っ」
エンデヴァーの指から、力が抜けた。
彼は自分の意思でそうしたつもりだったのかもしれない。だが、次の瞬間には、彼女の腕をつかんでいた手を離していた。