第6章 保須市襲撃事件
その中心で、エンデヴァーは炎を揺らめかせながら状況を見極めていた。
彼の眼前でも、一体の脳無が別の個体へと襲いかかっていた。
しかし、その動きには敵意の向け先が変わった以上の違和感がある。
ヒーローたちを狙っていた脳無が、今度は別の脳無を守るような動きを見せ、周囲の個体もそれに呼応していた。
「……何が起きている」
エンデヴァーの視線が、脳無たちの動きから外れる。
ほんの一瞬、夜空を切り裂くような銃声が聞こえた。
彼は顔を上げた。
遠くのビルの屋上。
そこに、一人の人影が立っていた。
月明かりを受けた金色の髪。
黒い衣服に包まれた細身の身体。
そして、こちらを見下ろす、冷静な眼差しの女性だった。
彼女はライフルを手にしたまま、微動だにせず戦場を見下ろしている。
その姿には、慌てた様子も、恐怖もなかった。
まるで、この異常な光景さえも想定の範囲内であるかのように。
エンデヴァーは目を細めた。
敵か、味方か。
それとも――。
彼女が脳無の動きを変えたのだとすれば、ヒーロー側にとっては救いとなる。
だが、正体も目的も分からない人間を、安易に味方と判断するわけにはいかなかった。
ましてや、銃器を持ち、正規のヒーロー活動とは異なる方法で戦況を変えている。
警戒すべき存在であることに変わりはない。
その間にも、脳無たちは動きを止め始めていた。
彼女はライフルを下ろし、静かに命令を下す。
「――もういいわ」
その声が届くはずもない距離。
それでも、支配下に置かれた脳無たちは、彼女の意思に従うように動きを止めた。
「自爆して」
次の瞬間。
街の各所で、脳無たちが相次いで爆発した。
轟音が夜空を震わせ、閃光が建物の壁面を照らす。
爆風が吹き抜け、煙が立ち上る。
だが、その爆発はヒーローたちを狙ったものではなかった。
脳無たち自身が、その活動を終えたのだ。
あれほどまでに街を脅かしていた異形の群れが、次々と沈黙していく。