第6章 保須市襲撃事件
保須市某所、ビルの屋上。
夜風が吹き抜けるなか、おもちはライフルを構えた。
眼下では、複数の脳無が暴れ回っている。
異形の腕が建物の壁面を砕き、地面が揺れる。プロヒーローたちは市民を守りながら応戦していたが、脳無の異常な耐久力と圧倒的な身体能力に苦戦していた。
「……USJのときと同じね」
彼女は静かに呟いた。
あのときも、ヒーローたちは脳無の強さに苦しめられた。
そして、自分はその戦況を覆した。
けれど、あれは偶然でも奇跡でもない。
彼女の個性がもたらした結果だった。
ライフルの銃身に、彼女の個性が静かに宿る。
指先から伝わる感覚を確かめるように、彼女は息を整えた。
今回も、やることは変わらない。
脳無の一体に狙いを定める。
引き金を引いた。
乾いた銃声が響き、弾丸が夜の街を駆け抜ける。
撃たれた脳無の身体が大きく揺れた。
直後、そいつは標的を見失ったかのように周囲を見回し、次の瞬間、すぐそばにいた別の脳無へと襲いかかった。
「……始まった」
彼女は目を細めた。
支配は、接触を介して広がっていく。
一体が支配下に置かれれば、その一体が別の個体に触れることで、さらに支配が伝播する。
それは、彼女の個性が持つ最も危険な性質の一つだった。
だからこそ、普段は前線での使用を制限されている。
しかし今、目の前にいるのは、制御を失えば市民に甚大な被害を与える脳無の群れだ。
彼女は迷わなかった。
再び銃声が響く。
支配下に置かれた脳無が、別の脳無へと襲いかかる。
その光景を見たプロヒーローたちは、戸惑いを隠せなかった。
「な、何が起きている……!?」
「脳無同士で争っているのか!?」
「いや、違う! こっちを攻撃してこなくなったぞ!」
つい先ほどまで自分たちを圧倒していた怪物たちが、突然、ヒーローへの攻撃をやめた。
それどころか、互いに接触した個体が次々と動きを変えていく。
まるで、誰かが見えない糸で操っているかのようだった。
だが、糸などどこにもない。
彼らには、目の前で何が起きているのか理解できなかった。