第6章 保須市襲撃事件
今回のターゲットは、表向きには市民を守るプロヒーローだった。しかし、その裏ではヴィラン側に情報を流し、公安の調査網をかいくぐって複数の事件に関与していた。
ヒーロー事務所の警備情報。捜査の進捗。ヴィランの確保に向けた作戦。
本来ならば市民を守るために使われるはずの情報が、彼の手を経由して敵側へ渡っていた。
それによって、捜査に関わった人間が危険にさらされ、事件の被害が拡大した疑いもあった。
公安は長期にわたって彼の動向を調べ、裏付けとなる情報を集めていた。
そして今夜、彼がヴィラン側と接触する可能性が高いとの判断が下された。
今回の任務は、単に裏切り者を消すことだけではない。
彼が握っている情報が、さらなる被害を生む前に、その計画を阻止すること。
それが、彼女に与えられた任務の目的だった。
もっとも、彼女に知らされている情報がすべてとは限らない。
公安が何を把握し、どこまでを彼女に伝えているのか。
それを確かめる権限も、今の彼女にはなかった。
「……任務、完了」
彼女は小さく呟いた。
しかし、その直後だった。
街の別の場所から、ひときわ大きな爆発音が響いた。
彼女の視線が、反射的にそちらへ向く。
燃え上がる炎。その向こうで、脳無と戦うヒーローたちの姿が見えた。
さらに、上空では翼を持つ脳無が飛び交っている。
保須市全体が、戦場と化していた。
彼女は思考を止めた。
憶測だけで結論を出すべきではない。まずは任務の報告と、現場に残された情報の確認が必要だ。
そう判断したところで、端末が短く振動した。
公安からの連絡だった。
彼女は画面を確認する。
そこには、現場の状況を確認し、速やかに離脱するよう指示が記されていた。
彼女は端末をしまい、ライフルをケースへ戻した。
そのとき、再び飯田の顔が脳裏をよぎる。
保須市にいる、クラスメイト。
そして、先ほどから消えない嫌な予感。
「……飯田くん」
無意識に名前がこぼれた。
任務とは、無関係であるはずだった。
彼女はそう割り切ろうとした。
けれど、視線の先では、街の混乱がいっそう激しくなっている。
そのどこかで、飯田が何と向き合っているのか。
彼女は黒いケースを手に取ると、端末を開き、電話を掛ける。