第6章 保須市襲撃事件
「顔が割れてるなら、少しは小細工が必要でしょう?」
「お前なぁ……。同一人物だって気づかねぇぞ。ソレ」
「同一人物ですよ」
「分かってる。分かってるから言ってんだ」
ホワイトクレインは額を押さえた。
「……まったく。雄英で少しは普通の生活を送れてると思ったんだがな」
彼女は答えなかった。
代わりに、黒いケースを持ち直す。
金髪のボブの下に隠れた瞳は、もう先ほどまでの柔らかさを見せていなかった。
「行ってきます」
「……ああ」
ホワイトクレインは、彼女を見送るように一歩退いた。
「帰ってこいよ」
その言葉に、彼女は一瞬だけ足を止めた。
振り返りはしなかった。
けれど、小さく頷いた。
「はい」
事務所の扉が開く。
夕暮れはすでに終わりかけ、街には夜の気配が満ち始めていた。
彼女は黒いケースを手に、静かに外へ出た。
金色の髪が、街灯の光をかすかに反射する。
日中は雄英の生徒としてヒーローを学んでいた女性。
今は、誰にも知られず任務へ向かう公安の人間。
その二つの姿の間に、明確な境界線などない。
彼女はただ、与えられた役割を切り替えているだけだった。
そして、夜の街へ足を踏み入れる。
かつての自分がいた場所へ再び、戻っていくために。