第6章 保須市襲撃事件
日中の白鷺ヒーロー事務所は、慌ただしくも活気に満ちており、3日が過ぎようとしていた。。
「現場じゃ、個性が強いだけじゃ役に立たねぇ。誰を先に救助するか、どこから手をつけるか、状況を見て判断しろ」
ホワイトクレインは、救助訓練用の模型を前に、彼女へ説明を続けていた。
「瓦礫の下に三人。出口付近に負傷者が二人。さらに建物の崩落が進んでいる。お前ならどうする?」
「まず、建物の構造と崩落の進行状況を確認します。そのうえで、救助に必要な人数と時間を見積もり、二次被害の危険性が高い場所から対応を考えます」
「具体的には?」
「出口付近の負傷者は、移動によって状態が悪化しないか確認しながら、安全な場所へ誘導します。同時に、瓦礫の下の三人については、救助経路を確保できるか検討します。ただし、建物の崩落が迫っているなら、救助隊の安全を優先して退避判断も必要です」
「よし。じゃあ、救助隊が二人しかいなかったら?」
「……優先順位を再評価します」
「そうだ。正解を一つ覚えるんじゃねぇ。現場ごとに判断を変えろ」
午前中から、そんなやり取りが何度も繰り返されていた。
救助活動における判断基準。警察や消防との連携。現場指揮官の役割。複数のヒーローが同時に動く際の情報共有。
ホワイトクレインは、彼女の頭の回転が速いことを認めながらも、決して簡単には褒めなかった。
「頭で分かってることと、実際に現場で動けることは別だ。自分の判断に自信があっても、周りの状況が変われば、すぐに修正しろ」
「はい」
「あと、救助される側の気持ちも忘れるな。効率だけで人間を見てると、見落とすものがある」
その言葉に、彼女は一瞬だけ目を伏せた。
効率、合理性、任務達成のための最適解。
それらを優先することには慣れていた。
けれど、ヒーローの仕事は、それだけではない。
相手が何を恐れ、何を求めているのか。
その人間が、今どんな気持ちで助けを待っているのか。
ホワイトクレインは、そうしたものまで考えるよう彼女に求めていた。
「……勉強になります」
「そりゃよかった。明日も覚悟しとけよ」
窓の外では、傾き始めた太陽が街並みを橙色に染めていた。
やがて、事務所の職員たちが一日の業務をまとめ始める。