第6章 保須市襲撃事件
「……おい。聞いてるか?」
ホワイトクレインの声で、彼女は現実に引き戻された。
「はい。聞いています」
「本当か? 途中から、どこか遠くへ行ってたぞ」
「少し、思い出しごとを」
「まったく……。まあ、いい」
ホワイトクレインは椅子に腰を下ろし、改めて彼女を見た。
「個性について、答えられる範囲でいい。分かっていることを教えてくれ」
彼女は数秒、沈黙した。
そして、静かに口を開いた。
「……私自身も、まだ分かっていないことがあります」
ホワイトクレインの眉が上がる。
「分かっていない?」
「はい。個性の使い方は理解しています。でも、その力の根本が何なのか、すべてを把握できているとは言い切れません」
彼女は自分の手のひらを見つめた。
「最近、少し気になることもあって」
「気になること?」
「……それは、もう少し整理してから話します」
ホワイトクレインは、彼女の顔をしばらく見つめた。
やがて、深く息を吐く。
「分かった。無理に聞き出すつもりはない。ただし、危険があるなら一人で抱え込むな」
「……はい」
「公安の人間だろうが、雄英の生徒だろうが、ここにいる間は俺の預かりだ。何かあれば報告しろ。これは職業体験の指導者としての命令だ」
彼女は、思わず小さく笑った。
「分かりました、ホワイトクレインさん」
「よし。じゃあ、まずは事務所の案内だ。救助現場の指揮系統も見せる。お前の個性に役立つこともあるだろう」
「ありがとうございます」
彼女は立ち上がった。
表向きの職業体験。
裏で進む公安の任務。
そして、自分自身にも説明できない、龍の夢。
三つの異なる現実が、彼女の中で少しずつ重なり始めていた。