第6章 保須市襲撃事件
雄英高校の放課後。
授業を終えた生徒たちが、次々と校舎を出ていく時間。
彼女は、一人オールマイトの待つ応接室にいた。
「……今朝、夢を見たんです。水に囲まれた場所で、赤い鳥居が並んでいて。その先に、龍がいるんです」
オールマイトは黙って聞いていた。
「金色の龍です。とても大きくて……私に、こう言うんです」
彼女は、夢の中で聞いた声を思い出す。
「『迎えに来た』って」
静かな部屋に、その言葉が落ちた。
オールマイトはすぐには答えなかった。
彼女が冗談を言っているわけではないことは、分かっている。
普段の彼女なら、説明できないことを安易に口にしない。
まして、自分の個性に関わる可能性があるのなら、なおさらだ。
「……その夢を見て、どう感じたんだい?」
彼女は少し考えた。
「怖くはありませんでした。でも、知らないはずなのに、知っているような気がするんです。初めて見る場所なのに、ずっと前からそこにいたような……」
言葉を探すように、彼女は視線を落とした。
「それに、龍を見たとき、懐かしいと思ったんです」
オールマイトの表情から、笑みが消えた。
「懐かしい……か」
「はい」
彼女は自分の手を見つめる。
「私の個性と関係があるのでしょうか」
その問いに、オールマイトは慎重に答えた。
「今の話だけでは、断言できない。夢が個性に関係している可能性はあるが、夢に出てきたものが、そのまま個性の正体だとは限らないからね」
「……そうですよね」
「今すぐ恐れる必要はないさ。ただし、無理に意味を決めつけるのもよくない。夢を見たときの状況や、目覚めた後の変化を記録しておくといい」
「記録、ですか」
「そう。君は何でも一人で考え込むところがあるからね。分からないことは、分からないまま誰かに相談していいんだ」
その言葉に、彼女は少しだけ目を見開いた。
誰かに相談する。
自分の判断だけで答えを出さなくてもいい。
そんな当たり前のことを、彼女はいつから忘れていたのだろう。
「……ありがとうございます」
彼女は、柔らかく笑った。
オールマイトも笑みを返す。
夢の中で自分を迎えに来た龍が、ただの象徴ではないのかもしれないことを。
そして、その存在が、彼女自身も知らない力の深奥に繋がっている可能性を。
――回想は、そこで途切れた。