第6章 保須市襲撃事件
「……何だよ」
「いえ。相変わらずだなと思って」
「誰のせいだと思ってんだ」
彼女は小さく笑った。
その笑顔を見て、ホワイトクレインはますます複雑そうな顔をした。
「……お前、本当に雄英で普通の高校生やってんだな」
「一応」
「一応じゃねぇ。体育祭、見たぞ」
彼女の笑みが、ほんのわずかに止まった。
「事務所で中継を流してた。お前が出てくるたび、スタッフが騒いでたぞ。『あの美人は誰だ』ってな」
「それは……」
「で、問題はそこじゃない」
ホワイトクレインの目つきが変わった。
先ほどまでの愚痴っぽい表情が消え、現場を指揮するヒーローの顔になる。
「お前の個性だ」
彼女は黙って彼を見返した。
「今まで聞いていた説明と、映像で見た動きが一致しねぇ。戦況を読むだけの個性じゃないだろ」
「……そうですね」
「一度、相手の動きを止めたかと思えば、周囲の状況まで連動して変わっていた。しかも、相手が自分の意思で動いているようには見えなかった」
ホワイトクレインは腕を組んだ。
「どこまで操作できる?対象は人間だけか? 物体も含むのか。操作するには視認が必要なのか、射程はどこまでなのか。複数を同時に動かせるのか。解除条件は?」
矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
「ホワイトクレインさん」
「何だ」
「質問が多いです」
「当たり前だろ。あんな個性を見せられて、気にならないヒーローがいるか!」
彼女は困ったように笑った。
だが、すぐに表情を戻す。
どこまで話すべきか。
この男は、公安と協力関係を結んでいる。彼女の素性も、今回の任務も知っている数少ない人物だ。
それでも、個性のすべてを知っているわけではない。
彼女自身、力の全容を把握しきれていない部分がある。
そして何より――。
体育祭で使った力と、彼女の中に眠るものは、同じなのだろうか。
ふと、脳裏にある光景が浮かんだ。
水面。
赤い鳥居。
そして、夢の中で自分を迎えに来たという、黄金の龍。
あの夢を見て以来、彼女の中には説明できない感覚が残り続けていた。
自分の個性とは何なのか。
あの龍は、いったい何を意味しているのか。
ホワイトクレインの問いに答える前に、彼女は別の記憶を思い出していた。
――あの日の放課後。