第6章 保須市襲撃事件
前を向き、迷いなく進んでいく。
けれど、二人が見据えているものは、まるで違っていた。
飯田は、兄を傷つけたヴィランへの怒りを胸に、保須市へ向かった。
自分が何をすべきなのか、まだ答えを見つけられないまま。
彼女は、ヴィランと通じたプロヒーローを排除するため、公安の任務へ向かった。
自分が何をすべきなのか、すでに答えを与えられたまま。
飯田は、正義を貫こうとしていた。
彼女は、正義を守るためという名目のもと、正義の側にいる人を殺すことを命じられていた。
飯田が怒りに呑まれれば、彼は自分自身を見失うかもしれない。
彼女が感情を捨て続ければ、いつか自分自身が何を信じていたのか、分からなくなるかもしれない。
二人とも、誰かを守るために進んでいる。
けれど、その道は同じではなかった。
そして、この時点ではまだ、二人とも知らない。
保須市で起こる出来事が、飯田の正義を大きく揺るがすことを。
彼女が向かう任務もまた、自分が信じてきたものの意味を、改めて問うことになるかもしれないことを。
相澤は、彼女が消えていった方向を見つめたまま、しばらく動かなかった。
「……戻ってこいよ」
誰にも届かないほど小さな声だった。
それでも彼は、願わずにはいられなかった。
彼女が任務を終えて、再び雄英の教室に戻ってくることを。
あの、仲間たちの声が響く場所へ。
今度こそ、誰かの命令ではなく。
彼女自身の意思で、帰ってこられるように。