第6章 保須市襲撃事件
「ねえねえ!」
不意に、葉隠が彼女の机に身を乗り出した。
「おもちちゃん、スカウトいっぱい来てたよね! どこにするの?」
あまりにも無邪気な問いだった。
悪意など、どこにもない。
ただ、友達がどこを選ぶのか知りたい。それだけだ。
それなのに、胸がちくりと痛んだ。
「……そうね」
彼女は手元のリストへ視線を落とした。
並んでいるのは、いずれも実在するヒーロー事務所の名前。
その中から、彼女が選べる場所は限られていた。
クラスメイトたちが選ぶ事務所と重ならないこと。
公安の任務に支障が出ないこと。
そして、必要なときには彼女がその場にいなかった理由を説明できること。
その条件を満たす事務所は、一つしかなかった。
「私は……『白鷺ヒーロー事務所』にしようと思ってる」
「白鷺?」
葉隠が首を傾げた。
「聞いたことあるかも! 確か、救助活動とか行方不明者の捜索に強い事務所だよね?」
「うん」
彼女は頷いた。
白鷺ヒーロー事務所。
都市部の災害救助や行方不明者の捜索、避難誘導を得意とする中規模のヒーロー事務所だ。
派手な戦闘映像がニュースを飾ることは少ない。
けれど、災害現場ではその名前が知られている。
瓦礫の下に取り残された人を探し出す。
混乱した避難所で人々を誘導する。
現場の情報を集約し、複数のヒーローが効率よく動けるようにする。
個人の戦闘力だけでは解決できない問題を、組織的な判断と連携によって解決する。それが白鷺の強みだった。
事務所を率いるのは、ヒーロー名《ホワイトクレイン》。
戦闘能力そのものよりも、現場全体を見渡す判断力と、救助隊を指揮する能力に定評のあるベテランヒーローだ。
所属ヒーローの人数は多くないが、消防や警察、医療機関との連携が深い。
そして――公安とも、長年にわたる協力関係を結んでいた。
表向きには、災害時の情報共有や合同訓練を行う協力先。
その裏では、公安が関与する案件において、必要な人員の受け入れや身元の説明、行動記録の調整を引き受けることもある。