第6章 保須市襲撃事件
職業訓練が始まる。
体育祭での活躍をきっかけに、ヒーロー事務所から届いたスカウトのリスト。生徒たちはそれぞれの紙を手に、どこへ行くべきか話し合っていた。
「うわっ、俺、こんなに来てる!」
上鳴がリストを掲げる。
「マジかよ! どこにすんだ?」
「悩むなぁ……。せっかくなら自分が成長できるところがいいよな!」
切島も候補を見比べている。
「私は、サポート面も学べる事務所がいいと思っていますわ。自分の個性をどのように活かせるか、実際の現場で確かめたいですもの」
八百万は真剣な表情でリストを読み込んでいた。
一方、スカウトが届かなかった生徒たちは、学校が事前に受け入れを確認した事務所の一覧を見ながら候補を絞っている。
「うーん、どこにしよう……」
麗日が首を傾げる。
「事務所によって経験できることも違うし、迷うよね」
教室のあちこちで、期待と迷いの入り混じった声が響いていた。
彼女もまた、スカウトのリストを持っていた。
体育祭での活躍。そして、あの目を引く容姿。
彼女を指名する事務所は少なくなかった。
けれど、彼女が本当に職業体験へ行くことは、最初から想定されていなかった。
一週間。
その期間を使い、公安から裏の任務を命じられていたのだ。
理由は単純だった。
人手不足。
本来なら、現役の公安職員が担当するはずの仕事。しかし、複数の案件が重なり、現場に出せる人員が足りなくなった。
そして、白羽の矢が立ったのが彼女だった。
雄英に潜入している最中であっても、彼女は公安の任務から完全に離れたわけではない。
学校で過ごす時間も、クラスメイトと笑い合う時間も、彼女にとっては想定外のものだった。
任務のために用意された偽りの身分。
偽りの経歴。
偽りの学生生活。
そのはずなのに…
「俺、絶対に強くなって帰ってくる!」
「職業体験で実際の現場を見られるなんて、楽しみだな!」
「どんなヒーローに会えるんだろう!」
弾んだ声を聞いていると、胸の奥に小さな痛みが走った。
――私は、本来ここにいるはずの人間じゃない。
みんなと同じ制服を着て、同じ授業を受け、同じように将来を考えている。
けれど、自分だけは違う。
この先の一週間も、彼女はヒーローとして現場を学ぶのではない。
公安の人間として、誰にも知られない場所で仕事をする。
