第5章 束の間の休息
教室の空気が、少しずつ変わっていく。
次々とヒーロー名が発表され、生徒たちの笑い声や歓声が飛び交う中、ミッドナイトが名簿へ目を落とした。
「さて、次は……」
彼女の視線が、ある名前のところで止まる。
「おもち」
「……!」
呼ばれた瞬間、胸が小さく跳ねた。
おもちは、ゆっくりと席を立つ。
自分でも驚くほど、手のひらに汗が滲んでいた。
これまで公安でいくつもの任務をこなし、危険な場面にも立ってきた。
敵を前にしても、銃口を向けられても、冷静さを失うことなどほとんどなかった。
なのに今は、たった一つの名前を口にするだけなのに、緊張している。
――自分自身で決めた名前
それは、今まで誰にも見せてこなかった「自分」を、初めて人前に晒け出すことと同じだった。
教壇の前まで歩いていく。
クラスメイトたちの視線が、一斉に集まった。
ミッドナイトが微笑む。
「さあ、あなたのヒーロー名は?」
おもちは一度だけ息を整え、静かに口を開く。
「……私のヒーロー名は」
一瞬、言葉が詰まるが、逃げずに顔を上げた。
「――レガリアです」
「レガリア?」
上鳴が聞き返す。
ミッドナイトも少しだけ目を細めた。
「Regalia……ね」
その言葉の意味を理解したのだろう。
「王権や威厳を象徴するもの、という意味ね」
「はい」
おもちは頷く。
「どうして、その名前を?」
ミッドナイトの問いに、教室が静かになった。
一瞬だけ、おもちの胸に迷いが生まれる。
――本当の理由を話すことはできない。
自分の個性の本質。
公安で過ごしてきた時間。
自分がどれほど危険な力を持っているのか。
そのすべてを、この場で明かすことはできない。
だから彼女は、嘘ではない言葉を選んだ。