第5章 束の間の休息
「みんな、ちゃんと考えてるんだなぁ」
麗日が感心したように呟く。
おもちは、そんなクラスメイトたちの姿を眺めながら、静かに微笑んでいた。
誰もが、自分の未来を思い描いている。
どんなヒーローになりたいのか。 どんな名前で人々に覚えてもらいたいのか。
その答えを、恥ずかしがりながらも、誇らしげに口にしていた。
――その光景が、彼女の中に眠っていた遠い記憶を呼び起こす。
*
まだ、両親が生きていた頃、彼女にも、夢があった。
『私、大きくなったらヒーローになる!』
幼い自分は、そう言って胸を張っていた。
きっかけは、もちろんオールマイトだった。
叔父が人々を救う姿は、幼い彼女にとって何よりも眩しかった。
困っている人を助け、絶望の中にいる人々に希望を与える。
どんなに大きな敵が相手でも、最後には笑顔で人々を安心させる。
そんな叔父を、彼女は心の底から尊敬していた。
家族だからという理由だけではない。
彼は、彼女にとって本物のヒーローだったのだ。
『じゃあ、将来は私と一緒に人々を救おうじゃないか!』
叔父が笑顔でそう言ってくれた日のことを、今でも覚えている。
あの頃の自分は、いつか同じように人々を救えると信じていた。
自分の個性が何であろうと、努力すれば、きっと誰かの力になれる。
幼い彼女は、疑いもしなかった。
けれど、その夢は、個性の本質が明らかになるにつれて、少しずつ形を変えていった。
彼女の個性は、単に相手を操るというものではなかった。
対象の行動や力を制御し、相手の意思さえも脅かしかねない。
その力が成長すれば、どれほどの脅威になり得るのか。
そして、その力を悪用しようとする者が現れたら。
父親は、医師として、その危険性を誰よりも理解していた。
「……この子の個性を、悪意ある人間に知られるわけにはいかない」
そう考えた父は、彼女の個性カウンセリングを自ら行った。
幼い娘の力を否定するためではない。いつか彼女が、自分の個性を理由に狙われることのないように。
その力を恐れる人々に、彼女自身まで危険視されないように。
そして、ヴィランに利用される未来を遠ざけるために。
父は、個性の登録に関わる記録へ、個性の本質をそのまま記載することを避けた。