第5章 束の間の休息
体育祭が終わって、二日。
雄英高校一年A組の教室には、まだ体育祭の余韻が色濃く残っていた。
「聞いてくれよ! 今朝、駅で知らねぇ人に声かけられたんだぜ! 体育祭見たよ、頑張ってたねって!」
「えーっ、すごいじゃん、上鳴!」
「俺なんか商店街で三人に声かけられたぞ!」
「三人って微妙じゃない?」
「うるせぇ、峰田!」
朝から賑やかな教室。テレビ中継されたこともあり、生徒たちは登校中に知らない人から声をかけられた経験を、競い合うように話していた。
「なんか、有名人になった気分だよね!」
麗日が楽しそうに笑う。
「わかる! 私もお母さんにすごく褒められた!」
「俺なんか、親戚中から連絡が来たぞ……」
切島まで少し照れくさそうに頭を掻いている。
その輪から少し離れた席で、おもちは頬杖をつきながら、楽しげにクラスメイトたちを眺めていた。
体育祭の最中には、勝敗や実力、将来のヒーローとしての評価を巡って、それぞれが真剣な顔をしていた。
けれど、こうして見れば、彼らはまだ高校生だ。
周囲から注目されることに浮かれ、友人同士で騒ぎ、些細なことで笑い合う。
そんな何気ない光景に、彼女の口元にも自然と笑みが浮かんだ。
「おもちちゃんはどうだった? 誰かに声かけられた?」
麗日が身を乗り出して尋ねる。
「ええ。何人かにね。頑張っていたね、って」
「やっぱり! あんな試合したんだもんね!」
「ふふ、ありがとう」
柔らかく微笑む彼女に、麗日も嬉しそうに笑い返した。
そのとき
ガラッ
教室の扉が開いた。
「席につけ。ホームルームを始めるぞ」
相澤が入ってくると、騒がしかった教室が少しずつ静まっていく。
いつもどおり気だるげな表情の担任は、教卓の前に立つと、手元の資料を確認した。
「体育祭でドラフト指名を受けた奴は、その事務所から選べる。指名がなかった奴も、学校側からオファーした事務所の中から選択することになる」
その言葉に、教室の空気が一変した。
「きた……!」
「ついに事務所選びか!」
「どこに行こうかな……」
先ほどまでの浮かれた雰囲気とは違う、期待と緊張が入り混じったざわめきが広がる。
相澤は資料に目を落としたまま、淡々と告げた。
「まず、ドラフト指名数の多かった順に発表する」
教室が静まり返る。