第5章 束の間の休息
彼女の個性については、彼自身もすべてを把握しているわけではない。しかし、彼女がわざわざ職員室まで訪ねてきたことには、きっと理由がある。
「その夢が、ずっと気になっているんだね?」
「ええ。どうにも引っかかっていて。私の個性と何か関係があるのかもしれないと思ったの」
彼女は少しだけ考え、続けた。
「ただの夢かもしれないんだけれど、オールマイトなら、私の知らない個性の性質や、何か思い当たることがあるかもしれないと思って」
オールマイトは、彼女の顔をじっと見つめた。
彼女が自分から個性について相談してくることは、これまで一度もなかった。
いつだって、自分で調べ、考え、答えを出そうとする子だった。
それが彼女の強さであり、彼にとっては心配の種でもあった。
「もちろんだとも!」
オールマイトは、いつもの明るい笑顔を浮かべた。
「放課後なら時間を取れる。ゆっくり話そうじゃないか。夢のことも、君の個性のこともね」
「……ありがとう」
彼女の表情が、ふっと和らいだ。
彼女は、安心していたのだ。
自分の抱えているものを、誰かと分かち合えることに。
「気にしなくていいんだよ。どんな些細なことでも、私に話してくれて構わない」
「……うん。そうする」
その返事を聞いた瞬間、オールマイトの胸に温かなものが広がった。
彼女が彼を頼ってくれた。
それだけのことが、こんなにも嬉しい。
かつては、守ることさえできなかった妹の娘。
失ったものを取り戻すことはできない。それでも、今ここにいる彼女の支えになることなら、まだできる。
叔父として。 そして、彼女のことを誰よりも大切に思う家族として。
「それじゃあ、放課後に」
「ああ。待っているよ!」
職員室を出る直前、彼女はもう一度振り返った。
「オールマイト」
「ん?」
「……ありがとう」
今度は、先ほどよりも少しだけ柔らかな笑顔だった。
彼女が廊下へ出ていくのを見送ってから、オールマイトは静かに目を細めた。
「……やっと、少しずつ頼ってくれるようになったか」
誰にも聞こえないほどの声で呟く。
どんな些細なことでも、自分を頼ってくれる姪のためなら、できる限りのことをしよう。
そう、心に誓いながら。