第4章 雄英体育祭編
オールマイトと別れたあと、彼女は自宅のマンションへと戻った。
鍵を取り出し、共用廊下を歩く。自分の部屋まであと少し――そう思ったところで、彼女は足を止めた。
玄関前に、一人の男が立っていた。
「……ホークス」
「やぁ」
壁に寄りかかっていた男は、いつもの軽い笑みを浮かべて手を上げた。
「おかえり。待ってたよ」
「……どうしてここに?」
「ちょっと仕事の事でね‥」
彼女は小さく息を吐き、鍵を開けた。
「立ち話もなんだから、入って」
「お邪魔しまーす」
軽い足取りで部屋に入ったホークスは、玄関先で彼女の姿を改めて眺めた。
淡い水色のワンピース。整えられた髪に、普段より少し丁寧な化粧。
「へえ。今日はずいぶん可愛い格好してるじゃん」
「そう?」
「デート?」
「違うわ。お墓参りに行ってたの」
彼女は靴を脱ぎながら、あっさりと答えた。
ホークスの笑みが、ほんの一瞬だけ薄くなる。
「……そっか」
それ以上、彼は何も聞かなかった。
彼女の両親が亡くなったことも、それから彼女がどんな道を歩んできたのかも、ホークスは知っている。
公安で彼女と関わってきた人間の一人として、彼女が過去を簡単に語らないことも理解していた。
だからこそ、軽々しく踏み込むことはしなかった。
「お茶、淹れるわね」
「ありがと。遠慮なくくつろがせてもらうよ」
ホークスはダイニングチェアを引き、当然のように腰を下ろした。
彼女がキッチンでお湯を沸かしている間、彼は頬杖をついて部屋の中を見回す。
整頓された室内。
余計なものの少ない空間。
相変わらず、生活感があるようでない部屋だった。
「ねえ」
「ん?」
「個人戦トーナメント、見たよ」
彼女の手が、ほんの一瞬止まった。
「……そう」
「いやあ、すごかったね。まさかあそこで、あの個性を使うとは思わなかった」
ホークスの声は軽い。
しかし、その目は笑っていなかった。
「しかも、あれだけ長時間使っちゃってさ」
「……頑張りすぎただけよ」
「へえ?」
彼女は湯呑みを二つ用意しながら、振り返ることなく答えた。