第4章 雄英体育祭編
「私は、自分の力を制御できる。そう判断して、ここまでやってきたの」
彼女の声は穏やかだった。
けれど、その奥には、長い年月をかけて積み上げてきた覚悟が滲んでいた。
「誰かに頼るより、自分で管理したほうが確実だった。それだけよ」
「君は……」
オールマイトは言葉を詰まらせた。
目の前にいるのは、かつて両親を失いながらも、誰にも弱音を吐かずに成長してきた少女だ。
彼女は強くなった。
賢くなり、自分の力を使いこなし、どんな状況でも冷静に判断できるようになった。
だが、その強さの陰で、彼女が何を犠牲にしてきたのか。
彼は、まだ知らないことばかりだった。
「……叔父さん」
彼女は煙草の灰を落とし、注射器を鞄へ戻した。
「全部を一度に話すのは、難しいと思う。でも、少しずつなら……話せると思う」
オールマイトは、しばらく彼女を見つめていた。
やがて、静かに頷く。
「分かった。急かすつもりはない」
そして、真っ直ぐに彼女を見つめた。
「だが、ひとつだけ約束してほしい。君自身の命を、任務よりも軽く扱わないことだ」
彼女は、ほんの少しだけ目を伏せた。
その言葉は、公安の上司からではなく、家族から向けられたものだった。
「……努力するわ」
「努力ではなく、約束してほしいんだがね」
困ったように笑う叔父を見て、彼女もまた、小さく笑った。
「……分かった。約束する」
窓の外では、穏やかな午後の日差しが街を照らしていた。
彼女の秘密は、まだすべて明かされたわけではない。
それでも今日、彼女は初めて、自分の抱えているものを誰かと分かち合う一歩を踏み出したのだった。