第4章 雄英体育祭編
窓際の席。
コーヒーの香りが漂う店内で、二人は向かい合っていた。
オールマイトは、カップを置いてから彼女を見つめた。
「体育祭、よく頑張ったね」
「ありがとう」
「……だが、少し心配にもなった」
彼女は微笑みを崩さなかった。
「そう?」
「医療班の手を振り払ったそうじゃないか。しかも、君はそのまま姿を消した。爆豪少年が見つけてくれなければ、どうなっていたことか」
「……迷惑をかけたわね」
「そういう話をしているんじゃない」
オールマイトの声が、少しだけ低くなった。
彼は彼女の叔父だった。
彼女の母親――つまり、オールマイトの妹の子ども。
両親を失ってから、彼女がどれほどのものを抱えて生きてきたのか。彼は誰よりも近くで見てきたつもりだった。
「君は昔から、肝心なことを話してくれない」
彼女は、カップの中で揺れるコーヒーを見つめた。
「必要なことは報告しているわ」
「公安の任務については、そうだろうね。しかし、君自身のことはどうだ?」
返す言葉が見つからなかった。
彼女は、自分の個性について必要以上に口外しない。
公安に入ってから、その傾向はますます強くなった。
任務に必要な情報だけを共有し、核心部分は極力伏せる。信頼している相手であっても、すべてを明かすことはしなかった。
それは彼女が生き延びるために身につけた習慣であり、同時に、彼女自身を追い詰めるものでもあった。
「……叔父さんは、私の個性を知っているでしょう?」
「知っているとも。だが、すべてではない」
オールマイトは静かに答えた。
「今回の体育祭で、君は長時間にわたって個性を使用した。その結果、身体に異常が出た。そうだね?」
彼女は黙っていた。
「それなのに、医療班を拒絶した。私には、君が単に怪我を隠そうとしていたようには見えなかった」
その言葉に、彼女の指先がわずかに震える。
さすがに、気づかれている。
あの場での自分の行動は、あまりにも不自然だった。