第4章 雄英体育祭編
体育祭を終え、教室では帰りのホームルームが行われていた。
「明日と明後日は休みだ。お前ら、浮かれるのはいいが、しっかり身体を休めろよ」
相澤の言葉に、教室のあちこちから安堵の声が上がる。
「やったー! 二連休!」
「体育祭、めっちゃ疲れたもんなぁ」
賑やかになる教室で、彼女は静かに帰り支度を整えていた。
身体の調子は、朝に比べればずいぶん落ち着いている。それでも、今日一日の疲労はまだ残っていた。
ふと、鞄のそばに畳んである黒いジャージが目に入る。
「……そうだった」
彼女はそれを手に取り、帰り支度をしている爆豪のもとへ歩み寄った。
「爆豪くん」
「あ?」
振り返った爆豪に、彼女はジャージを軽く持ち上げて見せる。
「これ、ありがとう。洗って返すね」
「……おう」
短い返事。
けれど、爆豪はすぐに視線を逸らさなかった。
何か言いたげな顔をしている。
彼女には分かっていた。
あのとき、自分が打った注射器。
医療班を拒んだ理由。
そして、長時間の個性使用によって身体に何が起きていたのか。
彼が知りたいことは、きっと山ほどある。
実際、爆豪の視線は一瞬だけ彼女の顔を確かめるように動いた。
「…………」
「…………」
けれど、彼は何も聞かなかった。
周囲では、クラスメイトたちが体育祭の話題で盛り上がっている。そんな中で、彼女の事情を無理に問いただすことはしなかった。
「……無理すんなよ」
やがて、爆豪はそれだけ言った。
ぶっきらぼうで、少し不機嫌そうな声。
「うん。ありがとう」
彼女は穏やかに微笑んだ。
爆豪は何か言い返そうとしたようだったが、結局、舌打ちひとつで鞄を肩に掛けた。
「じゃあな」
「またね、爆豪くん」
教室を出ていく背中を見送りながら、彼女はジャージを抱え直した。
聞きたいことがあるはずなのに。
問い詰めることだってできたはずなのに。
彼は、皆の前では何も聞かなかった。
あのとき、意識が朦朧とする自分を見つけ、無理やり抱き上げて運んでくれたことも。
目を覚ますまで、そばにいてくれたことも。
そして今、何も知らないふりをしてくれていることも。
「……優しいんだね」
小さく呟く。