第4章 雄英体育祭編
彼女は視線を落とし、手元の体操服を整えた。
「……大切にしているつもりですよ」
「本当に?」
「少なくとも、無茶をする前には考えています」
「考えたうえで無茶をするのが、一番厄介なんだよ」
思わず、彼女は笑ってしまった。
「耳が痛いですね」
「だったら少しは聞きな」
リカバリーガールは椅子の背にもたれた。
「若いうちは、自分がどれだけ無理をしているのか、分からなくなることがある。できるからやる。必要だからやる。誰かの役に立つからやる。……そうやって、いつの間にか自分のことを後回しにするんだ」
彼女は何も答えなかった。
思い当たることが、いくつもあったからだ。
「公安の仕事が、あんたにとって大切なのは分かってる。でもね、あんた自身の人生は、任務のためだけにあるんじゃないんだよ」
「…………」
「いつか、あんたが自分のために何かを選ぶ日が来てもいい。誰かの期待に応えるためでも、役目を果たすためでもなく、自分がそうしたいから、ってね」
彼女はしばらく黙っていた。
やがて、いつもの穏やかな笑みを浮かべる。
「……リカバリーガールって、人生相談の先生みたいですね」
「年寄りの小言さ」
「でも、ありがとうございます」
その声は、先ほどまでより少しだけ柔らかかった。
「覚えておきます」
「覚えておくだけじゃなく、実行しな」
「善処します」
「まったく、口だけは達者だねぇ」
二人は顔を見合わせて笑った。
その時間は、任務も、秘密も、戦いも忘れられる、ほんの短い休息だった。