第4章 雄英体育祭編
スタジアムを揺るがす歓声が、廊下にまで響いていた。
『緑谷選手、なおも前進!! 轟選手との激闘、いったいどうなるぅぅ!!』
実況の声に続き、観客の歓声が一段と大きくなる。
緑谷出久と轟焦凍。
二人の試合は、体育祭の中でもひときわ注目を集めていた。
――その頃。
彼女は、医務室の扉を軽く叩いていた。
「失礼します」
「あら、あんたかい。どうしたんだい?」
机に向かっていたリカバリーガールが、眼鏡越しに彼女を見る。
「体操服が溶けてしまって、替えをいただけないでしょうか?」
「溶けた?」
「芦戸さんの個性で、溶かされちゃって」
彼女は困ったように笑い、傷んだ体操服を見せた。
リカバリーガールは一瞬目を丸くし、それから呆れたようにため息をついた。
「まったく。あんたもずいぶん派手にやったもんだね」
「私としては、もう少し穏便に済ませたかったんですけど」
「その割には勝ち進んでるじゃないか」
「……そこは、予定外でした」
「ふん。言うようになったね」
リカバリーガールは棚から替えの体操服を取り出し、彼女に手渡した。
彼女は礼を言って受け取ると、近くの椅子に腰を下ろした。
「少し休んでいってもいいですか? 次の試合まで、まだ時間があるので」
「構わないよ。あんたが大人しく座っていられるならね」
「私、そんなに落ち着きがないですか?」
「普段はね。こういう場所に来ると、妙に年相応の顔をするけど」
彼女はくすりと笑った。
「それは褒め言葉ですか?」
「さあね」
リカバリーガールも、わずかに口元を緩めた。
二人の間には、雄英の生徒と養護教諭という関係だけでは説明できない、独特の親しさがあった。
何しろ、彼女の裏の顔を知る数少ない人間の一人なのだから。
しばらく、他愛のない話が続いた。
体育祭のこと、クラスメイトたちのこと、そして、彼女自身のこと。
やがてリカバリーガールは、ふと思い出したように尋ねた。
「……それで?」
「はい?」
「あんた、まだ公安にいるつもりかい?」
彼女の指先が、ほんのわずかに止まった。
リカバリーガールは真っすぐに彼女を見つめていた。
「あんた、二十一だろう。まだ若いんだから、もう少し自分を大切にしな」
穏やかな口調だった。
けれど、その言葉には長年、傷ついた若者たちを見てきた人間の重みがあった。
