第4章 雄英体育祭編
「今度こそいくよっ!」
芦戸が地面を蹴った。
指先から酸が放たれる。
彼女は右へ跳び、続く攻撃を身をひねってかわした。
(右からの牽制。次は足元を狙ってくる)
予想どおり、芦戸の酸が地面を走る。
彼女は跳躍し、着地と同時に距離を詰めた。
「うわっ、また!?」
芦戸が慌てて後退する。
彼女は追いすがるように見せかけ、すぐに進路を変えた。
正面から攻めると見せて、相手の視線を誘導する。
ほんの小さなフェイント。
それだけで、芦戸の重心がわずかに傾いた。
(あ、今のは少しやりすぎたかも)
そう思ったときには、すでに身体が動いていた。
彼女は芦戸の踏み込んだ足を避け、肩に手を添えて回転する。
相手の勢いを殺さず、進行方向だけを変える。
「えっ、ちょ――!」
芦戸の身体が、競技場の境界線へ向かって流れていく。
まずい。
このままでは場外だ。
彼女は咄嗟に手を伸ばした。
「芦戸さん、危な――」
しかし、芦戸も必死だった。
空中で身体をひねり、なんとか踏みとどまろうとする。
その足が、境界線ぎりぎりの地面を捉えた。
「っ、あぶな……!」
観客席から歓声が上がる。
彼女は内心でほっとした。
(よかった。これなら、まだ――)
ところが。
「まだまだぁっ!!」
芦戸が勢いよく振り返った。
その手から、酸が放たれる。
彼女は反射的に身を引いた。
酸の飛沫が頬のすぐ横をかすめ、傷んでいた体操服に再び飛び散る。
じゅっ。
「…………」
彼女は一瞬、目を閉じた。
(……ああ。もう、これ以上は困るわね)
体操服は、すでにかなり悲惨な状態だった。
これ以上溶かされると、試合どころではない。
彼女は静かに決意した。
(よし。早めに終わらせよう)
――その決意が、そもそもの間違いだった。
「いくよ、芦戸さん」
「望むところ!」
芦戸が酸を構える。