第4章 雄英体育祭編
『さああああ!! いよいよ個人戦トーナメントの開幕だぁ!!』
プレゼント・マイクの声が、スタジアムいっぱいに響き渡った。
観客席から歓声が沸き上がる。
予選を勝ち抜いた生徒たちが、次々と舞台へ呼び出されていく。
その中で、彼女は自分の対戦表を確認した。
「……八百万さん、か」
対戦相手の名前を口にして、視線を上げる。
向かい側に立つ八百万百は、いつもの凛とした姿とは少し違っていた。
肩に力が入り、視線は足元へ落ちている。
緊張しているのだろうか。
それとも――。
彼女は静かに八百万を観察した。
呼吸が浅い。
重心が定まっていない。
こちらと目が合っても、すぐに逸らしてしまう。
(……この子)
彼女は心の中で小さく息を吐いた。
(クラスメイトたちの実力に圧倒されて、自分の力を出し切れなくなっている?)
八百万は決して弱くない。
創造という個性は、知識と判断力、そして応用力が噛み合えば、いくらでも戦い方を広げられる。
それなのに、今の彼女からは、その強みを発揮しようとする意思が感じられなかった。
(自分の力を信じられなくなっているのね)
彼女はわずかに目を細めた。
(……もったいない)
『両者、位置について!』
試合開始の合図が近づく。
八百万はぎゅっと拳を握った。
対する彼女は、肩の力を抜いたまま、自然体で立っていた。
『それでは――始めぇぇぇ!!』
合図と同時に、八百万が動こうとする。
だが、その一瞬。
彼女はすでに間合いを詰めていた。
「えっ――」
八百万が反応したときには、もう遅い。
彼女は相手の正面からわずかに軸をずらし、伸ばしかけた腕を軽くいなす。
そして、足を払うように重心を崩し、肩を押して進行方向を変えた。
力任せではない。
相手の動きと体重移動を利用した、無駄のない動作。
八百万の身体が、場外へ向かって大きく傾く。
「きゃっ……!」
踏みとどまろうとした足が、地面を捉えきれなかった。
次の瞬間。
八百万の身体は、競技場の境界線を越えていた。
『しょ、勝負ありぃぃぃ!! 勝者、さとう!!』
一瞬の静寂。
そして、遅れて湧き上がる観客の歓声。
「はあっ!? 今ので終わり!?」
「何が起きたんだ!?」
「個性、使ったのか!?」
スタジアム中がざわめく。