第4章 雄英体育祭編
その頃、グラウンドでは。
「うおおおおおっ!! どこだ、どこにあんだよ!!」
上鳴電気が、封筒を片手に必死で走り回っていた。
借り物競争。
引いたお題は――。
『チアガール』
周囲を見回した、そのとき。
『上鳴くーん! 頑張ってー!!』
聞き覚えのある、明るい声が響いた。
上鳴は反射的に顔を上げる。
そして、固まった。
A組女子の応援団。その中で、ひときわ目を引く彼女が、満面の笑みでポンポンを振っていた。
「…………え?」
一瞬、思考が止まる。
いや、待て。チアガールが目の前にいる。
しかも、あのおもちが…
普段は何を考えているのか分からない、妙に大人びた雰囲気の美女が。
今、自分に向かって手を振っている。
「……っしゃあああああ!!」
上鳴は勢いよく拳を突き上げた。
彼女は訳も分からず、笑いながら手を振り返す。
その笑顔に、上鳴の顔が一気に明るくなった。
「ねえ! ちょっと来てくんない!?」
「ん? どうしたの?」
「借り物競争のお題! チアガールなんだよ! 頼む、協力してくれ!」
彼女は一瞬、きょとんとした。
「……私でいいの?」
「むしろおもちがいい!!」
即答だった。
背後で、耳郎が吹き出す。
「上鳴、必死すぎ!」
「うるせぇ! 競技なんだから仕方ねぇだろ!」
彼女はくすくすと笑いながら、一歩前に出た。
「いいよ。せっかくだし、最後まで頑張ってね?」
そして、彼に向かって、ぱちん、とウインクをひとつ。
上鳴は、再び硬直した。
数秒後。
「っしゃあああああ!! 俺、今日いける!! 絶対いけるわ!!」
二人そろってゴールへ向かって走り出す。
『上鳴選手、お題のチアガールとともに猛烈な勢いでゴールへ向かうぅぅ!! これはすごい! チアガールの応援が効いたのかぁー!?』
スタジアムは爆笑と歓声に包まれた。
その様子を見送った彼女は、満足げに頷いた。
「おもしろかったぁ…」
「……あんた、絶対楽しんでるでしょ」
耳郎が横目で見る。
「もちろん」
彼女は悪びれもせず、にっこり笑った。
その言葉に、女子たちも笑い出す。
――そして、応援を終えたりんご飴が、彼女の頭の片隅に戻ってきた。
「……あ」
「何?」
「りんご飴、食べなきゃ」
「今!?」
耳郎の叫びが、スタジアムの歓声にかき消されていった。