第4章 雄英体育祭編
個人戦で十二位以内に入らなかった者たちによる、借り物競争が始まろうとしていた。
スタジアムには、次の競技を待つ観客たちのざわめきが広がっている。
そんな中――
「……いただきます」
彼女は、何食わぬ顔でA組の席に座っていた。
チアガールとしての応援を終えた直後とは思えないほど、いつもの落ち着いた表情に戻っている。
ただし、両手いっぱいに抱えているものだけが、いつもと違った。
リンゴジュース、焼きそば、わたあめ、そして、りんご飴。
「…………」
隣に座った八百万が、思わず目を丸くする。
「まあ……随分と買いましたのね」
「うん。お腹空いたから」
「全部食べるんですか?」
「もちろん」
そう答えると、彼女は焼きそばを一口。
「もぐ……」
また一口。
「もぐもぐ……」
さらに一口。
完全なるモグモグタイムだった。
さっきまでスタジアムの中央でポンポンを振り、誰よりも楽しそうに踊っていた人物とは思えない。
蛙吹がちらりと彼女を見る。
「切り替えが早いわね、ケロ」
「体育祭は体力勝負だから。食べられるときに食べておかないと」
その横で、耳郎がわたあめを指差す。
「……それも食べるの?」
「食べるよ」
「りんご飴は?」
「これは最後の楽しみに取っておくの」
「……胃袋どうなってんの?」
彼女は答える代わりに、わたあめを一口頬張った。
「……ふわふわ」
ふわっと笑う。
「……まあ、いいか」
耳郎は呆れたように笑った。
「なんか今日、いつもより楽しそうじゃん」
「体育祭だからね」
彼女は少しだけ目を細め、スタジアムを見渡す。
選手たちが次の競技に向けて準備している。
「……たまには、こういう日もいいね」
そう呟いて、彼女はまた焼きそばを頬張った。
「もぐもぐ……」
その姿を見て、八百万たちが笑う。
そのとき――
『さあ皆さん! 次の競技は、個人戦十二位以下の選手たちによる――借り物競争だぁ!!』
スタジアム中に、プレゼント・マイクの声が響き渡った。
彼女は焼きそばを口に運びながら、ちらりと競技場を見る。
「……借り物競争か」
そして、何気なくりんご飴に手を伸ばした。
「まあ、私は出ないけど」
――このときの彼女は、まだ知らなかった。
借り物競争が、思わぬ形で自分を巻き込むことになるなど。