第4章 雄英体育祭編
緑谷チームが、再び地上に降り立つと、轟チームがこちらに向かって走ってきた。
「取る……!」
轟の意識が、完全に緑谷へ向いた。
その瞬間。
彼女の視線が、鋭く動いた。
(轟くんの意識は、緑谷君に集中している)
その周囲。
(右……空いてる)
さらに視線を滑らせる。
(後方……誰もいない)
そして――。
(今なら取れる)
彼女の個性が発動した。
世界が、一瞬だけ歪む。
彼女の身体が、空中を滑る。
いや。
正確には――。
自分と、轟の騎馬のすぐ横に転がっていた小石。
その位置を、瞬時に入れ替えた。
「――!」
次の瞬間。
彼女の身体が、轟の騎馬のすぐ横へ現れる。
「なっ!?」
轟が振り向く。
だが、遅い。
彼女の手が伸びる。
指先が鉢巻きに触れる。
「――取った」
バッ!!
鉢巻きが、彼女の手の中へ。
「……!」
轟の目が見開かれる。
一瞬で、勝負は決まった。
「……!」
彼女はすぐさま身体を翻す。
「戻る!」
空中へ。
だが、その瞬間――。
「……っ」
視界が揺れた。
(……あ)
頭の奥が、ふっと遠くなる。
まるで身体から力が抜けていくような感覚。
「……眠……」
強烈な眠気が、一気に押し寄せてきた。
まぶたが重い。
手足まで重く感じる。
(まずい……)
個性の使いすぎ。
それは彼女にとって、単なる疲労ではない。
支配した対象が多ければ多いほど。
複雑な位置交換を繰り返せば繰り返すほど。
脳への負荷が蓄積し――。
その代償として、猛烈な眠気が襲ってくる。
(ここで……寝たら……)
空中、身体のバランスが崩れかける。
「……っ」
彼女は必死に目を開けた。
下にはスタジアム。
「デクゥゥゥ!!」
その声が響いた。
爆豪。
彼が、緑谷へ向かって突っ込んでいる。
「……!」
彼女は意識を無理やり引き戻す。
(まだ終わってない)
今ここで眠るわけにはいかない。
彼女は歯を食いしばり、空中で身体を立て直した。
その直後。
「終了ォォォォ!!」
プレゼント・マイクの声がスタジアムを震わせた。