第11章 霽雨
——どれくらいの間、暗闇の中を彷徨っていたのだろう。
寒くて、それでいて、じっとりと蒸し暑くて、息ができなかったはずの私の世界に、ふわりと心地よいぬくもりが染み渡ってきた。
頭の上から伝わってくる、大好きな誰かの優しい手のひらの温度。そして、右手の方からは、少し骨張った、だけど力強くて安心する誰かの手が、私の凍えた手をぎゅっと包み込んでくれているのが分かった。
『……っ、ふ、……ぅ……』
小さく息を吐き出しながら、私はゆっくりと重い瞼を押し上げた。
白い天井。かすかに漂う、独特な消毒液の匂いと、微かなタバコの煙の香り。
『あ……、ここは…………』
「あ、気がついた?無理に身体を動かしちゃダメだよ、雫」
優しく声をかけてくれたのは、白衣を着た硝子さんだった。
硝子さんは私が目を覚ましたのを見て、ホッとしたようにふわりと表情を緩めると、すぐに私の枕元に屈み込んで、手際よく診察を始めてくれた。
「ちょっと胸の音を聴かせてね。……うん、さっきよりは呼吸もだいぶ落ち着いてきたみたいだ。指先の冷えも、少しだけマシになってるね」
『硝子、さん……私、どうして……』
「あんた、廊下で倒れたんだよ。憂太たちが血相変えて、ここまで運んできてくれたの。……まったく、あんたって子は、どうしてそんなになるまで我慢しちゃうの?」
硝子さんは呆れたように、だけど優しく温かい目で私を見つめ、私の額にそっと冷たいタオルを乗せてくれた。
ベッドの周りを見渡すと、そこには硝子さんだけでなく、任務から大急ぎで帰ってきてくれたのか、私の顔を心配そうに覗き込んでいる五条先生。そして、私の右手を両手でぎゅっと握りしめたまま、今にも泣き出しそうな顔で私を見つめている憂太くんや、真希さん、パンダさん、棘さんの姿があった。