第11章 霽雨
「あ……。いや、今のは……」
硝子さんは自分が重大な機密を口走ってしまったことに気づき、ハッとした表情でパッと口元を押さえた。いつもならクールな彼女が、分かりやすく動揺して視線を泳がせている。
「硝子さん、何か知ってんだろ。雫は一体、何者なんだ?」
真希さんがさらに踏み込もうとした、まさにその瞬間。
医務室の重いドアが、バァン!!! と左右に激しく弾け飛んだ。
「雫は……っ!? 雫はどこだっ!!!」
息を荒くし、部屋に飛び込んできたのは、朝一番に遠方へ任務に向かったはずの五条先生だった。
先生はベッドで荒い呼吸を繰り返す彼女の青白い顔を見つめ、目隠しの奥の瞳を小刻みに震わせながら、取り乱してベッドへと駆け寄ってくる。
「五条、落ち着きな」
「硝子……っ! 雫は、どうして急に……っ!」
「……ここでは言えないよ。上の老いぼれたちや四季庁との守秘義務があるからね。とにかく、今は全員そこをどきな。私はこの子の看病をしなきゃいけないんだ」
硝子さんはチラッと僕たちを見て、そう答えた。
そして、それ以上僕たちの質問に答えることを拒むように、冷たくシャッターを下ろしてしまった。
「いや、なんでもない」とばかりに再び彼女の額に手を当て、手際よく看病を始める硝子さん。
どうして先生も、硝子さんも、何かを隠しているんだ。
雫ちゃんは、一体何を背負っているの——?
僕は悔しさに奥歯を噛み締めながらも、ベッドの上の彼女の冷え切った手を、今はただ、ぎゅっと強く握り締め続けることしかできなかった。