第11章 霽雨
今朝、教室に入ってきた彼女は、無理に作ったような笑顔を浮かべていた。
外はあんなにかんかん照りで蒸し暑かったのに、どうして彼女が厚手のカーディガンを羽織っていたのか。真希さんが「暑くないか?」って訊いたとき、彼女が一瞬だけ息を詰まらせて、はぐらかすように笑っていた、あの違和感。
グラウンドからの帰り道、いつもなら僕の隣を歩いてくれる彼女が、どうして一番後ろを、歩いていたのか。
違和感は、思い返せばいくらでもあった。それなのに、僕は彼女が、名前を呼び合ったことを思い出して、それに照れているだけだと思い込んで、彼女のSOSを見落としていたんだ。
大切にすると、守ると誓ったはずなのに、目の前で今にも消えてしまいそうな女の子一人、気遣ってあげることもできなかった。自分の無力さと、鈍感さに、胸が引き裂かれそうになる。
硝子さんは、なにかの書類を、パラパラ、パラパラと何度もめくっていた。
「……あいつら、梅雨の時期を大幅に遅らせるなんて決定を下しやがったね。そのせいで、行き場をなくしたエネルギーが、この子の身体を内側から焼き尽くそうとしてるんだ……! おい、今すぐ護衛官の皐月って女を呼び出しな!」
硝子さんが怒りのあまり書類をデスクに叩きつけた、その時だった。
「……硝子さん。今、なんて言ったの?」
すぐ横から響いた僕の声に、硝子さんはハッと息を呑んで動きを止めた。
僕だけじゃない。真希さんも、パンダくんも、狗巻くんも、全員が目を見開いて硝子さんをじっと見つめていた。
「四季庁……? それに、梅雨の時期って、どういうことだ?」
「おかか……?」
真希さんが一歩前に出て、険しい表情で問いかける。
車の中で、僕は五月雨さんから漂う雨の匂いや教科書の記述から、彼女が『梅雨の代行者』ではないかと探りを入れていた。だけど、それはあくまで僕の推測でしかなくて……誰も、彼女の本当の正体をハッキリとは知らされていなかったのだ。
それなのに、今、硝子さんの口から、世間を騒がせているあの『代行者』を管理する組織である『四季庁』の名前と、『梅雨』という明確な言葉が飛び出してきた。