第10章 狂い雨
その名前が鼓膜を震わせた瞬間、私の頭の奥で、霧が晴れるように幼い頃の懐かしい情景が鮮やかに蘇ってきた。
前任の護衛官が、生きていた——あの幸福だった時代、私の身体から溢れ出す感情の制御が効かず、私の周りにまとわりついて私を苦しめていた、あの気味の悪い黒いモヤ。
私が苦しむといつも、その黒いモヤを、自分の手の中に全部吸い取るようにして、助けてくれた、あの温かいお兄さん。
『あぁ……っ! 夏油さん……っ! お久しぶりですね……っ!』
「ふふ、思い出してくれてよかった」
目の前にいるのが、あの頃の私の救世主の一人だったのだと気づき、私は一瞬にして警戒を解いて、パッと胸を弾ませて一歩近づいた。けれど、すぐに大切な恩人の名前を忘れていた非礼を思い出し、慌てて頭を下げた。