第9章 春霖
「あー、本当ならこのまま二人でどこかで美味しいご飯でも食べたいところだけど……流石に昨日の今日だからね。これ以上長引くと、流石に気付かれそうだし、大人しく帰ろっか」
五条先生が頭の後ろで両手を組みながら、少しだけ残念そうにそう呟いた。
『はい。……でも、今日はお洋服をたくさん選んでいただけて、本当に楽しかったです』
私が小さく微笑むと、先生は「ならよし!」と満足そうに笑って、車のアクセルをそっと踏み込んだ。
高専へと戻ってくると、敷地内はまだ朝と同じように、ひっそりと静まり返っていた。真希さんや憂太くんたちは、まだ任務から帰ってきていないみたいだ。
車を降りて寮の廊下を歩いていると、私の両手には収まりきらないほどの大きな紙袋の山を、五条先生が「僕が持つよ」とひょいと全部代わりに抱えて、私の部屋の前まで運んでくれた。
『五条先生、お部屋の前まで運んでくださって……本当に、ありがとうございました。今日の一日、大切にいたします』
ドアの前で私が丁寧にお辞儀をすると、先生は大きな手で私の頭をぽんぽんと優しく撫でて、目隠しの奥から甘い気配を滲ませた。
「いいってば。部屋に入ったら、早速その寝巻きに着替えてのんびり過ごしてね。じゃあ、また後で」
先生がひらひらと手を振って廊下の奥へと去っていくのを見送ってから、私はそっと部屋のドアを開けて中へと入った。
パタン、とドアを閉めると、静まり返った暗いお部屋に、私一人の足音だけが静かに響く。
ベッドの上に、五条先生が買っていってくれたたくさんの綺麗な可愛いお洋服の袋と、ふんわりとしたシルクの寝巻きを並べて置いてみる。