第9章 春霖
……本当に、たくさん買ってもらっちゃったな
これまでの人生で、こんなにも誰かに無条件で甘やかされ、与えられたことなんて一度もなかった。
——ううん。あった。
あの上層部の理不尽な命令からも、賊の脅威からも、私のことを自分の娘のように愛し、無条件に甘やかして守ってくれた、あの人以来だ。
もう二度と触れられないと思っていたあの頃の温もりを、五条先生の温かい手のひらや、硝子さんに重ねてしまっている自分に気づき、私の胸の奥には、先生に対する溢れんばかりの感謝と——それから、なんだか小さく胸がズキリとするような、切なく、恋しい気持ちが満ちていた。
五条先生に、何か……何かお礼がしたいな……
だけど、そう思った直後、私は自分の両手を見つめて、寂しく眉を下げてしまった。
私は四季庁に縛られた存在で、自由に外に出てお買い物に行くことすらできない。先生を喜ばせるような高価なものも、気の利いた贈り物も、私には何一つ用意することができないのだ。
私が、五条先生にあげられるもの。
この両手から差し出すことができる、私だけの特別なものと言ったら——。
……『雨』くらい、しかないな……
私はそっと窓辺へと歩み寄り、ガラスの向こうに広がる、高専の静かな青空を見上げた。
私の感情の揺れ動きに呼応して、溢れ出してしまった、あの少し寂しい夜の雨。
もし、私の降らせる雨が、五条先生のあの張り詰めた心を少しでも穏やかに潤して、疲れを癒してあげられるのなら。今日のお礼に、先生のためだけに、優しくて温かい、世界で一番綺麗な恵みの雨を降らせてあげたいな……なんて。
そんな、お買い物でもらった可愛い寝巻きを抱きしめながら浮かべた、ちょっぴり子供っぽくて、だけど私の精いっぱいの恋心のような気持ちは、静かなお部屋の空気の中にそっと溶けて消えていった。