第9章 春霖
五条先生の大きな歩幅に引かれるようにして高専をあとにし、先生の用意してくれた車に揺られることしばらく。
連れてこられたのは、洗練された大人の空気が漂う街の、一等地にあるきらびやかなお店だった。大理石の床に、美しく輝くシャンデリア。並んでいるのは、目の飛び出るような仕立ての良さが一目でわかる、高級な洋服ばかりだ。
『あの……五条先生、ここは、その……もの凄く高級なお店、ですよね……?』
お店の圧倒的な雰囲気に気後れしてしまい、私は着物の袖をきゅっと握りしめながら、先生の背中の後ろに一歩隠れるようにして小さく声をかけた。
「あはは、大丈夫だよ。ここのデザイナー、僕の知り合いだからさ。さーて、雫にはどんな服が似合うかな〜!」
先生は全く気にする様子もなく、いつもの軽い足取りで店内のラックへと進んでいく。そうして、私のために次々とお洋服を選び始めてくれた。
「あ、これ。色白な雫に絶対似合う。あ、こっちの淡いピンクのワンピースも可愛いなー。あ、でもこのクラシカルなネイビーのスカートも捨てがたい……よし、これも試着しよ!」
先生の細くて長い指先が、流れるような速さでハンガーをピックアップしていく。
鏡の前で先生が私の身体に合わせてくれるお洋服は、どれもカッティングがとても綺麗で、繊細なレースやリボンがあしらわれていて、見るもの全てが本当に、とっても可愛らしかった。
お洋服って、こんなにたくさんの種類があって、こんなに可愛いんだ……っ
生まれて初めて入るお洋服屋さんに、私の胸はウキウキと、まるで小さな小鳥が羽ばたいているような高鳴りを止められなかった。
「お、これなんかどう? 部屋で着るのにすっごく気持ち良さそうじゃん」
そう言って五条先生が掲げたのは、ふんわりとした、とろけるような肌触りのシルクの寝巻きだった。
夜、自分の部屋で一人で過ごす時間のためのものまで、先生は私の体調や心地よさを考えて選んでくれたのだ。その優しさが胸の奥にじんわりと染み渡っていく。
ひとしきり試着を終え、先生が「うん、全部完璧! これ、全部ください!」とお店の方にカードを差し出したとき、私はあまりの量と、おそらく信じられないほどの額になっているであろうことに気づいて、大慌てで先生の制服の袖を引っ張った。