第9章 春霖
いつも私の頭を優しく撫でてくれる五条先生。
愛おしそうにフッと目を細めて私の頭を撫でてくれた真希さん。
励ますように私の頭を優しく撫でてくれた棘さん。
そして、今こうして出会ったばかりの私を、慈しむように撫でてくれた家入さん。
……ここの人たちは、もしかして誰かの頭を優しく撫でるのが好きなのかな? それとも、そういう癖があるのかな……?
今まで四季庁で誰の温もりにも触れずに生きてきた私にとって、高専のみんなが当たり前のようにくれる手のひらのあたたかさは、ちょっぴり不思議で、だけど——やっぱり、もの凄く嬉しいな、なんて思ってしまう。
そんな女の子同士のあたたかい空間に浸って、硝子さんとおしゃべりをしていると、突如、私たちの間に黒い大きな影がバッと割り込んできた。
「はいはーい! 女の子同士のトークはそこまでー!」
ついに耐えきれなくなったというように、五条先生が私の肩を自分の大きな腕の中に引き寄せる。
「雫、買い物行こー!」
『えっ……っ!? か、買い物ですか……っ?』
突然の先生の乱入と、いきなり出てきた「買い物」という言葉に、私は目を丸くして驚いてしまった。
「そ! 着物も可愛いけどさ、雫には絶対に洋服も似合うから! 僕がとびきり可愛い服をたくさん買って、着飾ってあげる! ほら、早速出発しよー!」
「ちょっと、五条。まだ診察の途中なんだけど……。まったく、相変わらず独占欲の塊みたいな男だね、お前は」
硝子さんが呆れ果てたようにジト目を向けているけれど、先生はそれをひらひらと受け流しながら、私の肩を包んで歩き出す。
『あ、あの……! 硝子さん、お忙しい中ありがとうございました……っ!』
慌ててペコペコと頭を下げる私に、硝子さんは白衣の手を振りながら、お姉さんのような優しい笑みを浮かべてくれた。
「ふふ、いいよ。気をつけて行ってきな。—— 雫、またね」
『はい! また、よろしくお願いいたします!』
硝子さんの「またね」という響きが嬉しくて、私は手を振り返しながら、先生の大きな歩幅に引かれるようにして、初めての「お洋服のお買い物」という未知の世界へと一歩を踏み出した。