第9章 春霖
「雫、買い物行こー!」
『えっ……っ!? か、買い物ですか……っ?』
突然の僕の乱入に、雫は目を丸くして驚いている。
「そ! 着物も可愛いけどさ、雫には絶対に洋服も似合うから! 僕がとびきり可愛い服をたくさん買って、着飾ってあげる! ほら、早速出発しよー!」
「ちょっと、五条。まだ診察と、話の途中なんだけど……。まったく、相変わらず独占欲の塊みたいな男だね、お前は」
硝子が呆れ果てたようにジト目を向けてくる。だけど、そんなお小言なんて僕の耳には届かない。
「診察はまた今度ね! ほら、硝子にお別れ言って!」
『あ、あの……! 硝子さん、お忙しい中ありがとうございました……っ!』
慌ててペコペコと頭を下げる雫に、硝子は手をひらひらと振りながら、今ではあまり見ることがなくなった、とても柔らかな笑顔を浮かべていた。
「ふふ、いいよ。気をつけて行ってきな。——雫、またね」
『はい! また、よろしくお願いいたします!』
硝子の「またね」という言葉に、嬉しそうに手を振り返す雫。
僕はそんな彼女の肩を包んだまま、半ば強引に、だけど誰よりも大切に愛おしさを込めながら、彼女を連れ出した。